昭和⇔令和

登校渋り仮説

小学生期からあった「登校渋り」が、時間の経過や成長と共に減弱していく「本質的な理由」は、制度的に自由が「増える」からではなく、児童生徒が自らの内面に「自由を知っていく」からであると言われます。

これは、単なる「登校可能化」の問題ではなく、「生きる選択権を取り戻す物語」であり、就労・社会参加にまで繋がる「人生全体の自己決定」への胎動であるとも言えます。


仮説構造:統合モデル

児童期〜思春期の「登校渋り」

●初期では、「学校が合わない」「不安」「意味がない」と感じる この段階では、自由はまだ「与えられるもの」として捉えられている(=依存的)。

自由を知る」きっかけ

●年齢と共に、感情・認知・前頭前野が発達(メタ認知・自己制御力の向上)。

●「行く/行かない」を「選べる」と感じる ここに「解放感」が生まれ、行動変容の萌芽が現れる。


解放感の心理学的意味

●解放感とは、「束縛されていた状態から、自分の選択が可能になった」と感じる時に生まれるポジティブな感情。

●特に発達障害・境界知能の児童生徒は、「選択肢のなさ」「制限される事」に強いストレスを感じやすい。

●「選んでいい」と知った時、精神的な解放と回復(レジリエンス)は始まる。


「自由を知る」心の成長プロセス

これは、ただの「登校渋り改善プロセス」ではなく、「自分の人生の主導権を取り戻す旅」です。


7段階モデル:心理的変化

◆第1段階:拒絶と混乱(登校渋りの初期)

キーワード:不安、拒否、混乱、苦痛

✅ 心理状態:

●学校に行くのが「怖い・つらい・意味がない」。

●自分でも理由がわからない → 無力感。

●✅ 家族との関係:

●心配される一方で、プレッシャーや説得が重荷に。

●✅ 内面の芽:

●「行きたくない」という感情は、初めての「自己選択の声」。


◆第2段階:解放と罪悪感(行かない選択の容認)

キーワード:ほっとする/でも申し訳ない

✅ 心理状態:

●学校に行かなくていい事で一時的に「解放感」を得る。

●しかし「家族に迷惑かけてる」「自分だけズルい」など後ろめたさが芽生える。

✅ 家族との関係:

●支える家族の「心配」と「我慢」が伝わり、自責感が生まれる。

✅ 危機と希望:

●自由を知った直後は、罪悪感がその自由を曇らせる


◆第3段階:内省と孤立(アイデンティティの揺れ)

キーワード:私は何者? どうしてこうなった?

✅ 心理状態:

●時間が経つにつれ、「自分はこのままでいいのか?」と内省が始まる。

●他者と比べて劣等感、取り残され感、無価値感が強まる。

✅ 家族との関係:

●感謝と罪悪感が入り混じる → 会話が減る。

✅ 内面の動き:

●「このままじゃいけない」という気づき=変化の種


◆第4段階:気づきと意志の芽生え(自由の認知)

キーワード:選んでもいい/選びたい

✅ 心理状態:

●「行く・行かない」は選択できる事だったと気づく。

●小さな「やってみようかな」が生まれる。

✅ 家族との関係:

●プレッシャーが薄れ、「信じてくれてる」安心感が支えになる。

✅ 自己肯定感:

●小さな行動が「やってよかった」という手応え=自己効力感に変わる。


◆第5段階:選び取る練習(自由の実践)

キーワード:自分で決める/うまくいかないこともある

✅ 心理状態:

●週1回の外出(登校等)、オンライン学習など、小さな選択と挑戦が始まる。

●失敗や挫折を通して、「選び直す」経験をする。

✅ 家族との関係:

●共に喜ぶ・共に悩む関係性が育ち、対等さが生まれ始める。

✅ 自己肯定感:

●自分で決めた事は、結果に関わらず肯定的に受け止められるようになってくる。


◆第6段階:意味の再構築(自由と自己の統合)

キーワード:自分の物語/目的を持った行動

✅ 心理状態:

●外出(登校等)=「やらされる事」から「やってみたい事」へ。

●行く・行かないの選択が「自己の人生設計の一部」になる。

✅ 家族との関係:

●感謝・信頼・協働の関係へ進化。

✅ 自己肯定感:

●「この生き方でもいいんだ」と自己容認力が深まる


◆第7段階:就労・社会参加への若年成人期接続(自由の社会的発揮)

キーワード:選んだ未来/挑戦の持続

✅ 心理状態:

●働く・学ぶ・関わる事が「義務」ではなく「自分の選択」として実感される。

●不安や失敗も「また選び直せばいい」と思える柔軟さが備わる。

✅ 家族との関係:

●支援的・対話的パートナーとしての信頼関係。

✅ 社会的力:

●自分らしい働き方・生き方を模索・実践できる「自由の自立化」。


支援者にとっての7つの意義

フェーズ支援者の姿勢キーとなる支援
①拒絶受容と観察無理に動かさない、安心安全の確保
②解放共感と沈黙いてくれれば良い、安心感
③内省認知の言語化感情や悩みの整理のサポート
④気づき小さな挑戦の承認1歩の価値を一緒に喜ぶ
⑤練習自己決定の見守り失敗のリフレクション支援
⑥統合意味づけの支援物語を共に言葉にする(具現化)
⑦発揮社会参加の後押し「選び直し」を許す文化(空気感)づくり

登校渋りは「自由を知る旅」の始まり?

この説が示す真の意味

登校渋りは、単なる「学校に行けない・行かない」と云う問題ではありません。

それは、児童生徒が社会と云う枠の中で、「自分はどう生きるのか」という問いを、初めて深く感じ取る瞬間でもあります。

この問いに向き合う中で、彼らは「強制」から「選択」へ、「逃避」から「意志」へ、そして「生存」から「自己実現」へと進んでいきます。

このプロセス全体を、私たちは「自由を知る旅(自分史再構築の始まり)」と捉えます。


物語構造:7つのステージ×心理×支援×成長

ステージ心の動き感情/葛藤必要な支援成長の鍵
①拒絶のとき混乱・疲弊恐怖・不安無条件の受容・観察「感情」に気づける力
②解放のときほっとするでも申し訳ない安心基地・肯定的沈黙「選ばせてもらった」経験
③内省のとき私は何者?自己否定・孤独感自己表現支援・対話「問い」を持つ力
④気づきのとき小さな意志恐れと希望の混在小さな成功体験・共感「自由」を感じ取る力
⑤選択のとき行動の主体化うまくいかない不安選び直しの許容・リフレクション「選んでもいい」安心感
⑥再統合のとき自分の意味づけ自己肯定の再獲得ストーリー化・未来設計「生きる物語」の自覚
⑦社会との接続自分の道を歩く希望と不安の共存社会参加(登校・就労等)の支援「生きる力」としての自由の体現

心理学・神経科学的裏付け

理論/研究本説との関係
自己決定理論(Deci & Ryan)自律性=行動の意味を自分で選べると感じたとき、やる気と満足が高まる
ピアジェの形式的操作期思春期から抽象思考が発達し、自己や未来について内省可能になる
メタ認知・前頭前野の成熟自分の感情・行動を俯瞰して選択し直す力が育つ
愛着理論安全基地(家族・支援者)があることで、探索=挑戦が可能になる
レジリエンス研究自分で選び直せた経験が、ストレス耐性や再起の力につながる

支援モデルとの完全統合

モデル対応フェーズ自由を支える支援の実装
HEARTメソッド全ステージ自己表現、感情共有、関係性、安全な変化の物語
IDMモデル④〜⑦自分を知り、未来を設計し、社会で表現するプロセス
HOPEモデル⑤〜⑦進路や就労の小さな選択と、成功体験による自信育成
RISEモデル②〜④自分の傷つき・感情に気づき、受け止めて動き出す力
REZモデル全ステージつらさと共存しながら、安心を回復し、力に変える
FAM・BONDSモデル家族支援として全体に浸透家族等と一緒に「選び直し」の意味を考える対話支援

学校卒業後の「就労・社会参加」と接続する理由

「登校渋り」は「社会的脱落」ではなく、「生き方の探求の入口」です。

このプロセスで「自由」を知り、自分の意思で「選び直す力」を獲得した児童生徒らは、

●働く真の意味を考える。
●合わない職場(環境や空気感)を選び直せる。
●自分らしい生き方を模索し続けられる。

これは、単に「就職できた(ファーストテイク)」ではなく、「社会で自分を生きる事が出来る」という次元の物語です。


次に、「我慢を強いられ続ける」「強制され続ける」という状態が、児童生徒らの心身、成長、社会的適応、そして「最終的な費用対効果(コスト・ベネフィット)」にどのような影響をもたらすのか——

ここでは、心理学・神経科学・社会経済学的な観点から、リスクと費用対効果の視点を統合して考察していきます。

1.我慢・強制による心理的リスク

◆短期的影響

内容主なリスク
感情抑圧怒り・悲しみ・不安を表出できず、情緒不安定に
自己否定「ダメな自分」「頑張れない自分」という否定的自己認知の固定化
外在化抑えきれない感情が攻撃性・逸脱行動として現れる(非行、自傷等)

◆長期的影響

内容主なリスク
愛着障害他者との信頼形成が困難に → 孤立・人間関係トラブル
発達性トラウマ「日常的な不自由」が神経系に影響 → PTSD類似症状、過敏性、回避
レジリエンスの低下「どうせ無理」「自分では何も変えられない」→ 社会的撤退・就労困難

2.脳と神経への影響

◆長期ストレスと脳機能

●慢性的なストレスは、扁桃体の過活動/前頭前野の抑制/海馬の萎縮を招く 結果として、感情制御力・判断力・記憶力が低下。

◆可塑性の損失

●脳の可塑性は、「安全で自由な環境」で最大限に引き出される強制下で「本質的な学びの定着」そのものが損なわれる。


3.社会的コスト=最終的な費用対効果の観点

◆我慢強制ベース教育・支援の「見えにくいコスト」

項目コスト(費用)ベネフィット(利益)
教育への適応出席数は増えるが、内発的動機や学力が低下表面的な「適応」
心理的支援費将来的に精神医療・相談支援・生活保護などの社会的支援費が増加一時的に支援回避が可能
就労継続意欲と安定性に欠け、離職率が高まる雇用数だけは確保される
社会参加孤立・引きこもり・ニート化などによる社会的損失行動管理による短期成果

【4. 対照としての“自由を知る支援”の費用対効果】

比較軸強制・我慢ベース自由・選択ベース
初期支援コスト一見少ない(行動管理が中心)対話・伴走型のため時間と手間がかかる
感情的コスト子ども・家族の苦悩が蓄積安心と信頼関係の中で回復が進む
中長期成果精神不安・社会的孤立・二次障害の発生率増加自立/就労/社会参加の可能性と回復力の向上
社会的リターン負担の増加(医療・福祉費用)投資回収型(就労・納税・共生)

再定義

❌【強制と我慢の支援】

●「今の制度に合わせる」教育。

●一時的な従順さを得ても、心を失わせる。

●コストは静かに膨らみ、回復には時間とお金がかかる。

✅【自由と選択の支援】

●「この子がどう生きるか」に合わせる支援。

●意志ある行動が育まれ、社会で「自分として」生きられる。

●将来の医療・福祉コストの削減と、納税・貢献という形で社会的還元が可能。


「自由を知る事」が難しくなった時代

~「壊れる前に従う子どもたち」と「社会の変化」との関係性~

1.昭和と令和の社会構造と価値観の対比

項目昭和(高度経済成長〜終身雇用)現代(令和)
社会構造同調・集団主義、縦社会、終身雇用が前提多様化・流動化、個人主義、成果主義/不安定雇用
教育観画一的・一律指導、努力と根性、美徳とされた「我慢」個別最適化・自由と選択の尊重、だが本質的な構造はあまり変わらず
学校の役割社会への「前段階」としての訓練場社会構造の不安定化により「出口」が曖昧に
働き方働けば報われた、見返りが明確働いても報われない不確実性と競争社会
家族関係家父長制・上下関係が明確フラット化、しかし責任と不安は親へ集中

2.不登校・精神疾患増加の社会的因果

現代の背景と連動する主な因果関係

現象背景子どもに及ぼす影響
学校が「閉鎖的で一律なまま」多様化した価値観・特性に対応できていない適応できない子が「落ちこぼれる」のではなく「抜け落ちる」
SNS・情報過多社会常時比較・評価される世界承認欲求の疲弊、自己肯定感の低下
家庭の余裕喪失働き方が不安定化、核家族化、孤立化家庭自身が不安定 → 安定基地を形成できない
成功モデルの消失昭和型の「頑張れば報われる」神話の崩壊生きる目的・指針の喪失。「なぜ頑張るの?」
自己責任論の蔓延社会や構造の問題が個人の責任に転化「できないのは自分のせい」→ 自己否定と孤立化

3.「昭和の忍耐」と「令和の自由」の間で生じる社会的断絶

▶️昭和的教育の残存×現代的社会の過酷さ

✅結果として:

●強制に耐える子どもほど 壊れやすい。

●自由を求める子どもほど 不適応とされやすい。


4.統計と現象の裏付け

●不登校児童生徒数:30万人超(過去最多を更新)。

●児童精神科の外来患者数:ここ10年で倍増

●小中高生のウツ・適応障害:右肩上がり(厚労省調査、2022)。


5.本質的問題:自由の「使い方」が教えられていない

●昭和では、「自由はなかったが、我慢が意味を持っていた」。

●現代は、「自由があるように見えて、責任と不安ばかりが増えている」。

➡️ 子どもたちは、「どう選ぶのか」も、「選んだ後どうするか」も、誰からも学べていない


立場と提案

必要なのは、「もう一度昭和に戻る事」でも「何でも自由にさせる事」でもありません。

それは、「自由に生きて良い」と知った子どもが、「それでも誰かと共に歩いていける力」を育てる事にあります。

そして、「我慢」による抑圧ではなく、「誰かと共に」を得た「選び直し」の積み重ねによってしか育たない、発展的な成長戦略でもあります。


今、必要な教育観・支援観

昭和型現代に必要な価値
従わせる教育選ばせる教育
評価による管理意味づけによる納得
我慢を美徳とする共感と対話をベースにした自律の育成
社会に合う子を育てる子どもに合う社会との繋がりを探す

結論:壊れる前に自由を「知る(学ぶ)」機会を

今の子どもたちは、「我慢が足りない」のではない。

「我慢しても意味がない」と気づけるほど、世界が見えてしまっている。

だからこそ必要なのは、「壊れる前に自由を知る(学ぶ)」事。

そして、「それを一緒に扱える大人や仲間」がいる事。

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