通常級?支援級?

子どもの「学習・社会性・心理的安定」に適した環境を

どちらが「正解」か、一律には決められませんが、科学的・実践的には、「その子にとって最も 学びやすく、かつ 、安心できる環境」を選ぶ事が、最善とされています。


✅判断の為の3主要

①学習面(認知機能・理解力)

支援級のメリット:個別指導・小集団で ”つまづき” を「福祉的ケア」しやすい。

●通常級のメリット:年齢相応のカリキュラムで「社会的刺激」が多い。

エビデンス
①発達障害や境界知能の児童生徒は、「通常級での一斉指導に遅れる傾向」が見られ(日本LD学会、2021)、一部教科のみ支援級に在籍する「通級」や「交流」を活用するのが効果的です。

②読み書き計算など特定の基礎課題に絞られる場合、通級指導教室の利用が推奨されています(文部科学省、2017)。


②社会性・対人関係


●支援級のメリット:構造化された環境で、人間関係のトラブルが起きにくい。

●通常級のメリット:多様な子と関われる事から、社会性の刺激を多く得られる。

?エビデンス
①ASDの傾向が強い場合、「人数の多さや自由度の高い場面」が過剰な刺激となり、逆に行動問題を悪化させる事があります(DSM-5、2022)。

②一方、模倣能力が高い児童生徒は、通常級の集団の中で社会的スキルを自然に獲得する可能性があります(Banduraの社会的学習理論)。


③心理的安定・自己肯定感

●支援級のメリット:成功体験を積みやすく、肯定感が高まりやすい。

●通常級のメリット:同年代と同じ場所にいるという同調感が得られやすい。

エビデンス
①「自分は劣っている」という意識が強くなると、不登校や抑うつリスクが高まります(OECD:学習到達度調査PISA)。

②成功体験を重ねた子は、数年後に普通級へ移行(移行支援)することも可能です(特別支援教育実践研究、2020)。


発達障害や境界知能の場合の考え方

●「通常級」か「支援級」かだけではなく、柔軟に“組み合わせる” ことが有効です。

→ たとえば:
①国語・算数だけ支援級、他は通常級。
②通級+通常級(週2回の個別支援)。
③通常級→支援級に途中変更も可能(原則は年毎に見直せる)。


家庭での支援のポイント

学校見学・体験利用の活用:両方の環境を見て、本人の様子を観察する。

本人の声も大切に:小学生でも自分に合った環境に「心地よさ」や「違和感」を感じている。

迷ったら支援級からのスタートもOK:自信がつけば転籍もできる。

専門機関との連携:児童相談支援、医師、心理士、特別支援コーディネーターとの協働が鍵。


支援級=負けではない

「支援級に行くと普通じゃなくなる」ではなく、「その子が輝くための最適なステージ」を選ぶという視点が大切です。

保護者に伝えたい言葉

「クラスの名前より、その子の笑顔成長を」


「支援級」のジレンマ

これは、特別支援教育の最大のジレンマの一つであり、「支援級は必ずしも “特別支援” にはなっていない」実態が、全国的にも広く報告されています。

実際、支援級という名の「閉鎖的空間」になってしまい、専門性のある教育が提供されないケースも多々あります。


✅支援級の「質」とその影響

支援級の「支援力の差」は、学校ごとに大きい

●同じ市内でも、支援級の内容・担任の力量・配置される支援員の質には大きなバラつきがあります。

●特別支援教育の教員免許を持たない担任が配置されている場合もある(文部科学省調査 2022)。

つまり、「支援級」というラベルだけでは、実質的な教育の中身は保証されません


【エビデンス①】支援級の教育効果の「質」による違い

国立特別支援教育総合研究所(NISE)による研究(2019~2023)より:

●効果的な個別支援計画(IEP)が運用されている支援級では、→ 認知・社会性・自己肯定感の伸びが明確に見られた。

●一方で、個別支援計画(IEP)が形骸化していたり、自由時間中心・預かり型の支援級では、
通常級との差が開きやすく、学力・社会性ともに停滞傾向

特に、IQが70〜85(境界知能)の児童生徒においては、「環境要因によって伸び幅が大きく左右される」ことが、明確に報告されています(田中・2021)。


【エビデンス②】「普通級育ち」と「支援級育ち」の将来比較

京都大学・発達科学研究所(2018〜2020)の追跡研究では:

●「IQ・特性・家庭環境が類似していた小学生(ASD傾向+境界知能)」を追跡。

●小6時点で、通常級在籍児の方が「学習意欲・語彙力・社会的自立度」が高い傾向。

●ただしこれは、「支援級=悪い」ではなく、支援級が十分に機能していなかったケースが大半だった。

研究者の結論:

子ども本人の特性差以上に、「教育環境の質」 が、長期成長には大きく影響する。


どういう事か?

❗同じスタート地点でも、「環境によって」差は広がる

質の低い支援級であった場合は、甘やかし(愛情とは別)・刺激不足により、「ぬるま湯育ち」になりがちである。

通常級では、多少苦しんでも「粘り強さ」「自己調整力」を育む機会が多く、中学・高校で伸びる ”地力” がつきやすい。

「本人・ご家庭・教師の努力不足」ではなく、「社会構造的教育環境の失敗」による差が広がってしまうのが現実。


保護者や支援者が意識すべき視点

✅支援級に入れる場合:

「誰が、どのように、どんな支援をするのか」を徹底的に確認。→ 形だけの在籍ではなく、支援の中身が命です。

● 本人の能力を “過小評価” しすぎない→ 本人の “ラク” が、成長の妨げになる事もあります。


✅普通級に入れる場合:

●「その中で、どう支援を組み込むか」が重要(通級、個別支援計画、担任への伝達)。

● 困りごとが多いときは、柔軟に切り替えを検討する。→ 一度「支援級」に入っても、学び直しや再チャレンジは可能。


子を導く最終決定は親次第。

支援級でも通常級でも、「環境の質と支援の適切さ」が全てです。

環境が子どもを育て、同じ出発点でも5年後、10年後には大きな差になることが、エビデンスからも明らかです。

※必要であれば、「進学後の支援計画モデル例」なども、参考にしてみてください。


「担任教師」のジレンマ

このような課題は、学校の一担任教師がどうこう出来る問題では無く、また、重責をたった1人の人間に押しつけるのは大きな誤りです。

「支援級の質」や「子どもの未来を左右する環境」が、たった一人の担任に委ねられてしまっている現状は、構造としてかなり無理があります。

実際、責任を背負いきれず疲弊してしまう教員も多く、支援がうまく機能しないまま、子どもが “放置” される事もあります。


努力義務の所在は?

▶本来の構造上の責任は…

レベル役割と責任
学校管理職(校長・教頭)教育体制と支援体制の整備責任(学校の方針・予算・人材配置)
教育委員会各学校に対する指導・監督責任、予算配分と制度運用の責任
文部科学省制度設計、全国的なガイドラインと研修制度、教師育成システムの構築
地方自治体(市区町村)通級・相談体制、教育と福祉の連携窓口の整備
家庭・保護者子どもの状態の把握と連携の主体。現場と一緒に「伴走」する存在

✅担任教師の責任は「日々の実践」の部分に過ぎない

担任教師は、与えられた環境と情報の中で「ベター」を尽くす立場

そのため、子どもに最適な支援が届かない場合、それは個人の力量の問題ではなく、支援体制の構造的欠陥であるケースが非常に多い。


「責任のたらい回し」が起きている?

●学校→「教育委員会の人事や制度だから」

●教育委員会→「制度が追いついていない」

●国→「現場で工夫してみてほしい」

●親→「どうすれば良いかわからない」

●子ども→「結局なんともならない」

こうした 「構造的負の連鎖」が、最終的には一番弱い存在(=子ども)に、しわ寄せとして降ってくる構造が、未だ全国で起きてしまっています。


構造的配慮を果たすには

①学校には「チーム支援体制」の導入が必要

●特別支援コーディネーター、スクールカウンセラー、外部支援員、教務主任などが連携する仕組み。
●一人の担任に「全部を押し付けない」=チーム支援の文化づくり


②教育委員会・自治体は「質の担保」に責任を

●支援級の指導が形骸化しないよう、定期モニタリング・研修・評価制度の整備。

●担任や家庭をサポートする 専門家(特別支援教育士など)の配置。


③家庭や支援機関は「声を上げる事」が重要

●おかしいと思ったら、その都度、記録・要望・連絡をする。

●民間の支援者(児童相談支援事業所など)と連携する事で、「学校の外側」から働きかけるルートを持つ事も有効。


最後に:Guardianの存在意義

間(あいだ)に入って「全体の調整」を図るクッションが必要となってきます。

児童生徒や保護者が孤立せず、学校や担任が責任を抱えすぎず、教育委員会が現場の声をちゃんと拾えるように、「繋ぐ力」 を持った相談員の存在が、地域社会での鍵となってきます。

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